パサイ王国の王祖

13世紀、マレー半島の南にあるスマトラ島北部(マラッカより東)にパサイという港市国家が生まれました。この建国神話は、14世紀に原型ができたという『パサイ王国物語』に記載があります(現存する写本は18世紀のもの)。『パサイ王国物語』はマレー語による歴史叙述としては最古のものとなります。この『パサイ王国物語』の王祖についてメモしておきます。

 

昔々、北スマトラスムルランガに、ラジャ・ムハンマドとラジャ・アフマッドの兄弟がおりました。

ある日、ラジャ・ムハンマドは家来たちと森を切り開きにでかけました。すると、森の中に大きな竹がありました。その竹は、家来たちが刈っても刈ってもすぐに伸びてくる不思議な竹でした。ラジャ・ムハンマドがその竹を刈り取ったところ、竹株の真ん中に大きな筍があり、そこから可愛い女の子が出てきました。ラジャ・ムハンマドはその子を家に連れて帰り、「竹姫」と名づけ、大事に育てました。「竹姫」はすくすくと育ち、日ごとに可愛さをましていきました。

一方、ラジャ・アフマッドは森に狩りをしに出かけました。すると、森の奥で修業中の一人の老人に出会いました。その老人がただものでないと感じたラジャ・アフマッドは、兄のように自分も子供が欲しいことを伝えました。すると老人は、象に育てられている男の子がいることを話しました。話をきいたラジャ・アフマッドが待っていると、そこに大きな象が頭に男の子を乗せて、水浴びにやってきました。ラジャ・アフマッドは、いったん家に帰り、家来をつれて森にやって来て、象が水浴びをしているすきに男の子を奪い取ることができました。その子は見目麗しく、ムラ・ガジャと名付けられました。ラジャ・アフマッドは、将来ムラ・ガジャと「竹姫」を結婚させたいと、ラジャ・ムハンマドに申し入れました。

この象に育てられた男の子と竹姫は、成長すると結婚しました。その間に生まれたムラ・シルが、のちの初代パサイ王です。

 

参考文献[1]では「竹姫」となっています、「竹姫」はマレーシア語のWikipediaではPuteri Betung(Puteri:王女、Betung:竹)になっています。ムラ・ガジャ(Merah:赤、Gajah:象)のように固有名詞にしなかったのは、かぐや姫と重ねさせて興味を引くためでしょうか?

 

参考文献

[1] 弘末雅士「東南アジアの建国神話」山川出版社(2003)